2018年11月22日木曜日

ELEPHANT NOIZ KASHIMASHIは、完全スタジオ録音のダウンロードコード付き新作音源「ENZKMS(PTK-006)」をqujakuとの東名阪ツアーに合わせた2018年10月13日に、拙レーベルPHETISH/TOKYOよりリリースした。
今回我々がその媒体に選択したのは、「石」である

ELEPHANT NOIZ KASHIMASHI 「ENZKMS」(PTK-006)


同レーベルの旗揚げとして2017年初頭にCD媒体で発表した前作(録音は2016年末)「DISCOVERY(PTK-001)は、多摩美術大学での結成と小林くんとの二人時代から、メンバーの加入脱退を経て現体制へと至るおよそ5年間の過程を、我々の演奏形態、そしてその向上を録音技術の進化となぞらえ、また一つの区切りとしてパッケージングし収録した全5曲のベスト盤的内容となっていた。

※「DISCOVERY」に関してはここに詳しい。

前回の製作から現在に至るまで、「ノイズ」の「録音」に関してやや懐疑的であることに変わりはないが(絶対にライブの方がカッコイイという自負もあり)、過去に行っていた、空間そして現場そのものを即時的に感知しながらの演奏というスタイルから、リズムを取り入れ、楽曲構成がある程度固定された最近の演奏への移行を経て、その意識はやや軟化し、「今のノイカシ」を定期的に「記録」し表明しておくことへの必要性は大きく感じるようになった。故に昨年はライブ盤CDを数枚「BOOT」シリーズとして発表した。
ENZKMS/LIVE/BOOT/4(PTK-004)

今回のリリースにあたっての話し合いの中で、当初は録音データをすべて解放し、個々の音をそのまま収録したファイルと、お手本とも言えるミックスデータを同梱したものをプレートや、セルフインタビューを掲載した新聞紙大の紙媒体でリリースするという案もあった。
そこには、素材(楽器・非楽器問わず)とアイデアの集積である現在の我々を一度解体し、聴者に(勿論自分も含めた)それを委ねることで、新たな何かが産まれるのでは無いか。という思惑があったが、取捨選択し構成が練られた演奏を行っている今にはそぐわない。という判断がなされた。


やや脱線するが、「ノイズ」に於ける音の選択とは何かについて、少し話をしよう。
前回の記事で自分は「世界をミュートしない」と宣言したが、そこで記した感情的な側面以外に、ノイズや即興の演奏に於いてしばしば提唱される「聴覚の拡大」というコンセプトがある。簡単に言うと、会場の空調や外を走る電車などといった環境音は勿論、ふとした瞬間にコップを倒した観客の出した音さえも「平等」に処理し、楽曲構成に取り入れるという考え方だ。
なんともピースな思想に聞こえるが、実はそこには残酷な精査が隠されている。
全ての音を平等に扱うということは、「要らない」と判断される音も圧倒的に多くなるということ、そしてミステイク(存在しないとも言える)もやり直しも認められないということにもなる。

ライブが始まった以上、よほどのことが無い限り、演奏は30分間終わらせることが出来ない。機材の特性上、思った時に狙った音が出ないということはまま有ること(ハンドメイドの楽器を使用している以上、突然の不調に至ることも稀にある)で、それさえも受け入れながらバンドを最終的なカタルシスへと辿り着かせることは意外に神経を消耗することなのだ。勿論、そうした思想を根底に置きながら長年演奏を、そして切磋を繰り返してきたことが、現在の我々を作っているとは言えるだろう。






さて、では何故今回、リリース媒体として「石」を選択したのかという話題に移ろう。
前述した通り、現状の「記録」として音源をリリースする以上、「完成系である」として作品を発表することはしたくなかった。(とは言え、スタジオ録音を行う以上、前述したBOOTの様なCDRでは心もとない)故に今回、「形が固定されていないモノ」という観点からのリサーチを行い、切削の際に出た形状がそれぞれなコンクリートやタイルの歯切れなどが候補に上がったが、あまりに直接的過ぎるのと、並べた際の美的景観からもある程度の均一性は必要であるという結論に達した。
(媒体が何らかの「重みを持った」モノである必要性については後述する。)

そこで、前述したコンセプトに今一度立ち戻り、今は固定された形ではあるが、「変わる」可能性があるものでもいいのでは無いか。という発想の転換から「彫刻石」が浮上した。



一点、断っておきたいのだが、自分はCDというメディアが、巷間で囁かれている様に既に終わったもので、もはや価値を持たなくったとは思わない。上記のインタビューでも語っているが、我々は、いや少なくとも2000年代初頭に青春を過ごした自分にはデータを抱きしめられる価値観を有するのに今暫しの時間を要するであろうし、PHEITSH/TOKYOというレーベルのコンセプト(produceされたphenomenonとしてのfetish)としても、公的なリリースは「モノ」である必要がある。

しかしながら、ベスト盤としてCD媒体でリリースした前作の次回作としてリリースすることを踏まえても、今作を規制のパッケージングへ落とし込むことへの危惧があり、故にプレスCDとしてのリリースは最初から念頭に無かった。
それは、現在の我々の演奏へ自分が抱いていた一抹の不安にも繋がる。

正直なところ、現在の我々のスタイルの様に、ノイズにリズムを取り入れ、そして構成をフォーマット化してしまうということは、アイデアの可能性を狭め、最終的にはバンドの寿命を縮めることになってしまうのではないかという懸念が個人的にはあったのだ。






だが、それをメンバーに吐露したところ、
「我々は日々確かに変化している。そんな心配は恐るるに足りない」
といった意味のことを言われ、同時に「我々はまだまだ削れるし、まだ見ぬ形を磨き上げ成形していける」という自信を彼らの言葉から受け取り、「彫刻石」という素材は大きくここに合致するということを確信した。

勿論、それ自体は、ネット通販などでおおやけに販売されているものなのであるが、バンドのロゴを表面に銘記し、楽曲のダウンロードコードを添付、そして価格を1500円という一般的なミニアルバムの値段に設定することで、削れなくはないが、実際のところは彫刻石としての有用性がある程度失われることになり、携帯するには大きく、装飾品として身につけることも出来ず、もちろんCD棚に仕舞うことも敵わない一つの異質な「モノ」として、しかし確かな重みを持って、音源データがダウンロードされ「媒体」としての役目を終えた後も存在することになるのではないか。

そしてそれは「完成形」ではなく、我々の一つの「到達点」を示すマイルストーンとして、「過去」のある定点として将来的にも置かれる筈だ。
何故なら、リリースから一ヶ月を経た今、バンドはもうそこには居ないからである。

我々は今日も削り、ともすれば叩き割り、形を変えながら前進を続けているのである。


最後に、録音と編集に渡り(幾度の校正にも)携わってくれたTakaaki Katsuyamaさん。
毎度のライブ映像、並びに今回の録音風景の撮影も行ってくれた白岩義行さんに、この場を借りて改めてお礼を述べたい。

いずれにせよ、続きは現場で。
そここそが、いつも最先端なのだ。





ELEPHANT NOIZ KASHIMASHI「ENZKMS」は以下のサイトからご購入が可能です。

“Reconquista"
"FILE-UNDER RECORDS”



ELEPHANT NOIZ KASHIMASHI LIVE SCHEDULE

11/26 渋谷Seventh Floor 19:00〜 ¥ 1000
w/すずえり&kaz SAITA/シシヤマザキ
DJ/脳BRAIN/biki
12/4 西永福JAM 19:00〜 ¥ 2400
w/つしまげる / ゆーの / ゲスバンド 
12/7 小岩BUSH BASH 19:30〜 ¥ 1800
w/田島ハルコ/碧衣スイミング/BOKUGO(浜松)/小川直人
12/16 渋谷RUBY ROOM Ray#3 19:00〜 ¥ 1500
w/The Loyettes/ermhoi
O.A. VAMPIRE✞HUNTER™
12/23 神楽坂神楽音 18:00〜 ¥ 2500
w/MAMMOTH/BBBBBBB/ロクトシチ/とうめい都市/Pot-pourri

MAIL/phetishtokyo@gmail.com