2018年5月26日土曜日

「アンビエントする空間 ~『表乾』開催に寄せて~」






6月20日に「間のある歌モノデュオ」こと『ツラネ』と俺、片岡フグリの共同で『表乾』という変わったタイトルのイベントを開催する。
場所は、東京、八丁堀にある『七針』というスペースだ。アクセスは少し悪いが、余計な装飾や照明の無い、今回のイベント趣旨に合ったベストな空間として、ここをお借りすることに決めた。

ゲストにお呼びしたのは世界的和モノ電子アンビエントの名手『SUGAI KEN』さん。
昨年Visible cloaks来日の際、マジ失神すんじゃねーかってくらいの超アクトに大感動した思いの丈をお伝えすると、快く出演を承諾して下さった。






さて、「アンビエントする空間」なんて大それたタイトルを付けてしまったが、個人的なアンビエントへの見解、表乾の意味や今回のイベントの趣旨を訥々と語っていけたらと考えている。それでは、暫しのお付き合いをよろしく。


まず、俺個人の最も鮮烈な「アンビエント体験」として語っておきたいのが、今年一月にイベントの開催場所でもある七針で拝見した『chihei hatakeyama』さんのライブについてだ。
ご存知の方もおられると思うのだが、SUGAIさん同様、世界的に有名な、こちらはギタードローンアーティストの方で、まさに「啓示」「福音」とも云うべき体験を俺はそこでする事となった。




話題は少し逸れるが、アンビエント(ここではライブ演奏に絞ってお話しをする)のひとつの見方、聴き方として、そういった音楽にあまり触れることの無かった皆さんにお勧めしたいのが、「ちょっと寝る」である。どういうことかというと、読んで字の如く、ちょっと寝るのだ。

なんとも間の抜けた表現となってしまうが、これが割と面白くて、できれば横になって見れたらベストなんだけど、公共の場ではそれも難しい。なので、できるだけ余計な情報の入らない、かつ安定した姿勢をとれる場所を確保し、演奏に身を委ねながら、ちょっと寝るのだ。

前述した様にライブ会場という他人との距離の近い、ある程度の緊張を強いる公共空間で熟睡するのは難しい。少し寝て、すぐ起きてしまう。でも、また少し寝てみる、起きる。を繰り返すことで、時間の感覚が怪しくなってくる。勿論、この間も演奏は続いている。

これを続ける内に、さっき考えていたこと、そしてそれがいつのことだったのかがよく分からなくなってくる。という、思考のタイミングや内容、時系列がいつしか曖昧になってくるという不思議な体験をする事となるのだ。

アンビエントという音楽の特性として、演奏の大きな緩急、また、明確な曲の繋ぎというものはあって無いようなものが多い。(ライブ一本でまるまる一曲が演奏されるという事もよくある)
そういった楽曲としての単位が明確に分けられたものでは無いからこそ、上記の様なちょっとした遊びを行うのに適しているのである。
(例えば、一般的な楽曲をその時々に集中を要する「点」だと仮定すれば、アンビエントは「線」であると思ってもらえれば判りやすい。hatakeyama氏も語っておられたが、だからこそ演奏にはある程度のまとまった時間が必要とされる)

時間の感覚が希薄になるこの現象は、「さっき考えていたこと」と「いま考えていること」の境界を限りなく薄くする。それによって両者を恰も等価なものに感じさせ、「線」としての時間を逆説的に意識させることになる。

これを拡大解釈していくことで、大きな流れの中で生きている(生きてきた)自分を意識し、今を、そしてあの日のことを、出来事としての「点」の集積ではなく、連なる一本の「線」として、理解し直すことが出来るのだ。(そして勿論、その線は未来へも繋っていく)

記憶の等価化現象。暫定的に「アンビエントする」とここでは呼ぼう。

前述した様に、永続するかとも取れる様な音楽だからこそ、この様な体験が可能となった訳ではあるが、勿論、それはなんでも良かった訳ではなく、身を委ねる水は美しければ美しいほど良い。
chihei hatakeyama氏の超上質な演奏に依ってこそ、判断力を鈍らせる酩酊感とも言えるそれを超え、昇華された一種神秘的とも言える体験を自分はすることが出来たのだ。

(馴れてくるとこの体験は起きたままでも看取可能となる。
大友良英氏が「MUSICS」で語っていた「音溶かし」
に原理としては近いかも知れない)


とは言え、自分のやっている弾き語りによる演奏は、前述した様な所謂アンビエントでは無い。(曲という「点」を強く持っており、大きな緩急も擁している)
しかしながら楽曲や、詩によるアプローチから「アンビエントする」ことを一つの目的としている。(というか、氏の演奏を拝見し、する事に決めた)





それはどういう事か?もう少し、これを詳しく説明しよう。

アンビエントが語られる際に必ず引用されるものにエリック・サティが提唱した「家具の音楽」という概念があるが、
(サティの思惑はBGM化する音楽への懸念とアンチテーゼとしてのものだったそうだが、ここではそのコンセプト(家具のように、そこにあっても日常生活を妨げない音楽、意識的に聴かれることのない音楽)のみを拝借する。以下に詳しいので興味のある方は一読下さい。

「家具」とは日々に於いて、意識されることは無いが、あった方が良く、暮らしをより豊かにするものである。
人間にとって、普段は意識下に埋没しているものの、あった方が良く、暮らしを豊かにするもの。
それは「思い出」である。

「アンビエントする」とは、ただ単に過去のアルバムを紐解き、過ぎ去った時代を主観的に「点」として懐かしむのではなく、ある程度の客観を持って、己の系譜を「線」として俯瞰することにその目的がある。そこには良いも悪いも無い。なぜなら「思い出」はそこでは等価なのだから。

とは言え、どうしたって「アンビエントする」は個的な体験に終始するので、個人的に好きにやってればいいじゃ無いかという意見も理解出来る。
だが、あった方がいい/否応ナシにあってしまう「思い出」は、(良きにせよ/悪しきにせよ)誰しもが持っているもので、その感情のプールは思いの外大きく、普遍的なものであると自分は信じている。

だからこそ、「ライブ」そして「箱」という特殊な空間の中で、交わる事の難しい初対面の人間や、顔見知り程度の個々人と共にその大きなプールへ一瞬でもアクセスすることは不可能なことでは無い筈で、そしてそれはとても有意義なことであり、それが故に自分は人前で演奏することに大きな意味があると思っている。

そのプールへ向かい「アンビエントする」為に自分は「思い出」を歌い、アンビエント的楽曲では無い方法で、ウェットなそのグルーヴを観客と共有することを志向している。
(そうすることで、「回想法」の様なセラピー的効能を狙うことはその目的では無い。
ただそこへ至ることが自分の現在の目的である。
とは言え、「恥の多い生涯を送ってきました」とペシミストを気取るつもりは無いが、自分の様な後ろ向きな人間にとって、上記の様な思考に至り、ある種の自覚を持って過去を、そして未来を捉えることが出来るというのは、ある種の救いではある)



ここでイベントタイトルの説明をしよう。
「表乾」とは、表面は乾き、水の付着は見られないが、内部の間隙は水で満たされている状態を指す建築用語である。(このタイトルはそちら方面の業界人、にこげ氏(ツラネ)発案のものである。)

乾いたもの(個人の表層)は交われない(または難しい)が、濡れたもの(内面)は混ざり合うことが出来得る。という思いを自分はここへ(勝手に)宛てている。

最後に、今回のイベントの開催場所として『七針』を選んだ理由についても触れておきたい。

冒頭に述べた様に、そこは照明や内装に関して余計な装飾が省かれ、バーカウンターといった余計な雑音の入る余地を排した特殊な地下空間となっている。
「音」や「歌」に身を委ね、内面のプールへダイブする場所として、これ以上の空間はなかなか無いであろう。2,30人も入れば満員となるキャパシティも適度である。

梅雨真っ盛り、湿度に満たされた物理的にもウェットな『七針』で「アンビエントする」空間を少しでも表象することが、今回のイベントの趣旨であり、目的である。

皆様のご来場を心よりお待ちしている



片岡フグリ×ツラネ共同企画『表乾』


6月20日(水) @八丁堀七針

¥ 2000(飲食物の持ち込みOKです)

OPEN 19:30/START 20:00


出演/片岡フグリ/ツラネ/SUGAI KEN



片岡フグリ

1990年4月6日生まれ、多摩美術大学卒業、兵庫県西脇市出身。

ELEPHANT NOIZ KASHIMASHI、COMPUTER GRAPHIX、otopoyecisなど数多のバンド・ユニット活動と共にレーベル、PHETISH/TOKYOを主宰。同レーベルのデザイナー、アートディレクターを務める。
また、怪談イベントのプロデュースやエレカシトーク、アートイベントへのゲスト出演など、その活動は多岐にわたる。

ソロでの歌手活動では、声とギター、そして空間の全てを演奏する。











ツラネ

2014年結成 。gt担当山﨑熊蔵(kumagusu)、vo&noise担当にこげ(どろうみ)。極限まで削ぎ落とされた音数により構成された楽曲。その隙間から透明な歌声とノイズを紡いでいく。 「喪失と創造」をテーマに掲げ、活動中。ELEPHANT NOIZ KASHIMASHIとのコラボ等も行う。








SUGAI KEN

日本の夜を想起させる独特なスタイルを軸に、国内のコアな俚伝を電化させる事に傾倒するトラックメーカー。
最新作『てれんてくだ tele-n-tech-da』がDiscrepant(UK)からリリースされたばかりだが、現在国内外からオファーが殺到しており、複数のタイトルリリースを控える。
前作『不浮不埋 UkabazUmorezU』では国際的な評価(Pitchfork等)を獲得。2016年作『鯰上 On The Quakefish』はリプレスも完売。
日本屈指のレーベル〈EM Records〉からの作品『如の夜庭 Garden in the Night (An Electronic Re-creation)』により世界中のコアなリスナーとコネクト。
LOS APSON?の2014&2016&2017年間チャートに作品がそれぞれランクインし、Fabriclive(UK)への楽曲提供も行った。また、BBC Radioの複数の番組にて楽曲がオンエアーされている他、NTS Radioにて頻繁に曲がプレイされている。
Solid Steel(Ninjatune)シリーズにRob Boothを唸らせた不思議なmixを提供し、年始にはHessle Audioへも奇特なmixを提供。
先日のEUツアー(by RVNG Intl.)ではCafe OTO(UK)公演がsold outになる等、注目度の高さをうかがわせ、全13公演(6ヶ国)にてその独自性を遺憾なく発揮した。
(ツアー期間中、Worldwide FMにてインタビューも収録。6月に放送予定)
尚、現行シーンでの活動と並行し、国内の郷土芸能アーカイヴプロジェクトに複数携わる等、亜種な活動を兀兀と展開中。